演技を上手く見せる

少し前に表現力について書きました。
表現があってもイマイチなダンサーがいるのはたしか。
なんだか独りよがりに見える。

その笑顔、その視線、その表現は誰に向けているのか。
つまり、その踊りを「誰が見ている」のか、「誰にみせるのか」を意識なければいけません。

そこで大切なのは、「観客の視線」
常に「お客さんから見てどう見えるのか」「どう見せたいのか」を意識して踊ること。



踊る自分は「これが良い!」と思っていても、観る側(観客)が美しくない、と感じてしまえば、次回観に来てもらうこともできません。
「表現力を上げるには」にも書いたように、自分が共感する部分だけを表現するのではなく、共感しないことも表現する。
自分が共感することは観ているお客さんは共感しないかもしれない。

観客にダンスの経験があるかないか、またその立場によって、視線や心理が異なると書かれた論文があります。
観客をダンス未経験者・ダンス経験者・ダンス講師の3つのグループに分けて実験をしたもので、
観る側は興味があるところしか見ないから、経験と立場で見る場所がこれだけ違いますよ、といったもの。

ダンス未経験者や初めてダンスを見た方たちは、顔に注目することが多く、表情、動き全体の雰囲気や音楽や衣装などに注目。
ダンス経験者は足、手、動きの組み合わせ、腕や体の使い方などのテクニック面に注目。
ダンス指導者は作品全体のイメージ、またダンサーの表現力、曲と動きの中の呼吸と流れなど、抽象的な見方をしているようでした。

この研究から、舞台によってダンサーを観るグループが異なるので、強化するべきことや指導するべきことが異なっていることが分かります。

多くのコンクールでは、指導者になった元がダンサーが審査するので、作品のイメージ、呼吸や一連の流れの強化が必要となります。
指導者たちが見ている「ダンサーの表現力」とは、身体の動きや呼吸を使った表現。
単なるゆっくりではなく優雅に優しく動いたり、ただの大きなジャンプではなくダイナミックでパワフルなジャンプだったり、
はじけるような爽快なジャンプだったりといったストーリーを現した動きです。
そうなると当然、ダンス経験者が注目しているテクニックがなければ、動きのコントロールはできません。

そしてダンサーが素人かプロかを問わず、公演や発表会などの舞台で踊る際には
バレエを全く知らない方も観にくるので、顔の表情や音楽、衣装の考慮が必要。

当たり前ですが、素晴らしいダンサーとは3つのグループが見ている全ての箇所をこなせるダンサー。

テクニックだけを追ってもダメだし、顔の表現だけでもダメ、
音や体から出す雰囲気やその表現も伴っていなければいけない。
そのためには踊りの背景を熟知し、衣装や小物はたまた音楽の知識を持ち、講師はそれを生徒たちに伝える能力がなければならない。

私がコンクールの審査員をしていて、「この踊りにこの衣装?」と、不思議に思う場合もあれば、
「この生徒にこのステップ(または、音の速さなど)が合うのかもだけど、そうすると表現が変わってくるのではないか?!」と、
点数をつける時に悩む場合もあります。
ダンサー本人は何も悪くないのですが、実際、「振り付け」に点数を入れなければいけない場合もあります。

講師が恥をかくどころか、良くも悪くもその意見は生徒・ダンサーに戻ってくる。
我々、講師・指導者は知識だけの頭でっかちでもいけません。

この3者の視線の違いは今後、自分が何を学び、ダンサー・生徒たちに伝えていかなければいけないのかを考えるいい機会になりました。

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